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未来創造のための地域エコシステムづくり

【ゲスト講演④】





野口 謙吾

三井住友信託銀行 株式会社 エグゼクティブアドバイザー

New Ecosystem for Startups株式会社 取締役・ファウンダー



地域エコシステムの目指すもの


高齢化は、人だけの問題ではない。日本のシステム、インフラや法律が実情にそぐわなくなっている。高齢化の解決策のキーワードは、Well-beingと考える。

地域エコシステムの目指すものは、有力事業者、自治体、地域金融機関、大学、地域企業といったネットワークから生まれてくるものに、お金をつけながら課題を解決していくことである。つまり、地域課題に沿った投資機会を創出することだ。ただし一人ひとりがやっていこうとならないと、なかなか解決しない。



内発的動機を考えた時に、ESGはとても分かりにくい。内発的動機のないものは長続きしない上に、付加価値の創造に繋げていくのはかなり難易度が高いと言える。例えば脱炭素は、レギュレーションクリアだ。世の中の構造が変わって温暖化が進んでいる中、CO2削減については国が明確に数値目標を出している。

一方、Well-beingは一人ひとりが幸せになるイメージで分かりやすい。

幸せになろうよ、という話であれば、誰もが分かってくれる。そこにどうやって結びつけていくのか。担い手は誰で、続いていくのかという点が大事だ。


 


地域エコシステムの正体


地域は、地方の小さな区分ではない。最低でも日本全体だと考える。この認識のもと、全体のあり姿を変えていく。都会型の街を目指すという話ではない。地方ごとに役割があり、地方には地方の財がある。そこを見極めて、各地域ごとに何をやっていくのかを見定めていくことが必要だ。

時代を変えてきたのは、サイエンスとテクノロジーである。サイエンスとテクノロジーで、付加価値を生んでいくことが大事だ。知財のあるアカデミアの活用は、1つのキーワードになる。各地に1つは大学があるために、地域にある大学は大きなブレイクスルーのコアになる可能性が高い。そこでまちづくりのハブとして、コアに大学を置くのだ。

ゴールである大学の見え方を変えれば、そこまでのプロセスが変わるのではないか。大学のあり姿が変われば、小中高のあり姿も変わる。今の実情に合わなくなってきているところを、改善する考え方だ。


 

巻き込む力とは何か


茨城県学生ビジネスプランコンテストに呼ばれて、記念講演をしたことがある。コンテストは、茨城県内在学・在住の中高生、高専生、大学生もしくは茨城県内のプランを対象とするものだ。ファイナリスト8チームのうち、6チームが高校生であった。


そこで感じたのは、巻き込む力である。


高校生が自ら考えたことを実現していく。県の農業試験場や工業試験場に対して、こういうことをやりたいから、こういう試験をしてもらえないかと働きかける。こんなものにトライしたいと言えば、農家や製造会社も喜んでやってくれるし、物流会社も協力してくれる。これからは若い力の活用が重要になると感じた。ただし若い人たちは経験値がないために、見えている世界が狭い。そこは我々の世代が役に立つことがあるのではないか。


テクノロジーやサイエンスでブレイクスルーを起こすために、大学のあり姿を変えることによって、若い人たちがそこを目指すようになる。そういう人たちが、既存の社会を巻き込みながら、主体的に物事を変えていくことが可能になると感じているところだ。


地域エコシステムに本格的に関わるようになって10年ほど経つが、部分的にしか変えられていない。変えていくためのキーワードは、知の拠点としての学校、若い人への主役の移譲だ。

 


東北大学との合弁会社による出島戦略


私は三井住友信託銀行をはじめ、複数の金融機関の顧問ほか、NESというベンチャーキャピタルを創業して投資運営に携わっている。複数の大学にて教鞭をとる傍ら、大学の先生方にどういうプログラムを作っていくべきかの助言も行う。個別ベンチャー企業の経営アドバイザーもしているが、経営者との壁打ちや事業計画の作成など、相当手間がかかる。しかしリアルな現場において自分自身が小さな積み重ねをやることで、世の中は変わっていくと考えて取り組むものだ。


東北大学と三井住友信託銀行は、2023年4月に合弁会社を設立した。国立大学としては初となる民間との共同出資による子会社だ。これは巨大な組織である大学の中にあるとできないことをやるために、私が大野総長に働きかけた出島戦略である。実際にCVCの現場も、成功の道筋はなかなか複雑だ。そこで出島を作った上で権限もセパレートして、自分達がやりたい新しいことをやる。


例えば一流の人材を引っ張るために、報酬体系を変えた。必要な利益を産むために、民間の需要を大学の研究にぶち当てる。民間が望むことをトランスレートしながら、大学の先生方と取り組むのだ。まだ走り始めたところだが、変わるきっかけになったのではないか。

 

 

地方銀行の無限の可能性


今後は、地域の金融機関のポテンシャルを再評価していきたい。地方銀行には、地域というワードで希望を見出している。地方銀行には人材もいるし、ビジネスとして投資や融資を行えるほか、地元企業とのネットワークもある。地方銀行のヒト・モノ・カネを活用すれば、無限の可能性が広がると考える。地域には財はあるけれども、認識されていない。そこで価値を見出すために外部の人の目を生かしながら、新しいエコシステムの構築に目を向けていく。

 本日は、個社の話ではなく全体の話をさせていただいた。お話しした方向性で、ゲームチェンジをしていきたい。


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