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2023年 3月16日開催

World Healthcare Game Changers Forum 2023春

羽化せよ!ゲームチェンジャーたち

〜公益資本主義と人材創出 世界が憧れる日本へ

  WHGC設立発起人挨拶・統括講演 

公益資本主義で世界が憧れる日本へ

原 丈人 (アライアンス・フォーラム財団 会長/WHGC設立発起人)

50年先、100年先の日本をどのような社会にしたいか。
このフォーラムでは、多くの人と共に、日本が進むべき道を考えたい。
論じたいのは、予想ではなく希望です。
希望ある将来ビジョンを描き、実現に向けた設計図を次の世代に手渡すことは、今を生きる私たち世代がやるべき仕事です。
WHGCは、寿命を全うする直前まで、全ての国民が健康で豊かに暮らせる社会の実現に資する人材を創出するために設立しました。
ここでいう「健康」とは、がんになっても治癒し、車椅子の人も再び立って歩き出せる身体的な健康と、ゆとりがあり格差も少なく、誰もが安心して暮らせる社会の健康のことを指します。
豊かさは、所得が上がることで実現します。
そのために企業に求められるのは、生産性の向上と、利益の公正分配です。

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生産性の向上と利益を公正分配する経営を

30年間にわたり、日本の平均所得は横ばいのままでした。

この間、日本企業が全く成長していないわけではありません。株主資本主義が蔓延し、株主への分配だけが突出して増加しているのです。
会社が利益をあげられるのは、社員や仕入先、顧客、地域社会、地球そして中長期株主といった、事業活動を成功に導いてくれる仲間、つまり「社中」の協力があるからです。
ですから、利益は社中に公正に分配されるべきものです。

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昨今の賃上げの流れは歓迎すべきです。ただし、利益の出ている上場企業であれば、公正な分配を実現することで、従業員の給与を今すぐ倍増させることも可能です。
株主還元の割合を上げるなら、連動して社員への還元率も上げる。そうするように、コ―ポレートガバナンスコードを変える必要があります。

公益資本主義と人材創出 世界が憧れる日本へ

生産性を向上させるには、4つの手法しかありません。技術投資、インフラ投資、設備投資、そして人材投資です。
その中で人材投資が投資額が最も少なく、効果が着実に早く現れます。

 

ただ、人材投資といっても、リスキリングとかジョブ型といったことが日本人の働き方に本当に合うのかは深く考えるべきです。
欧米人は「自分のために働く」人が圧倒的に多いのに対し、日本人は自分のためよりも、「誰かのために働く」ときのほうが情熱を持ちやすいですから。

 

生産性を向上させるために求められるのは、俯瞰的に物事を捉え、現場感覚を持った人材。そうした人材を多く抱えた会社はどんどん強くなっていきます。
 

会社は株主のものではなく、社会の公器です。
公益資本主義のもと、生産性を高め、上がった利益を適正に分配し、さらに新たな領域への挑戦にも投じることで、持続的な成長を目指すべきです。

 

事業を通じて社会への貢献を実現する。
こうした会社が増えていけば、教育を受けた健康で豊かな国民が増えることにつながります。

そのとき、格差の拡大に苦しむ諸外国から、日本は憧れられる国になるでしょう。

  基調講演 

真の生産性向上を実現する経営と人材創出

 経済の大原則は、土地と労働と資本を投下し、財貨と付加価値を生み出すことにあります。そこで重要なことは、資本や労働への分配はもちろん、租税を通じた国への分配まで含めた、利益の公正分配です。
 ところが1990年から2020年までの30年の間に、株主利益を尊重しすぎる米国型の資本主義が日本市場を席捲してきました。日本はここから30年間で、利益を公正分配する経済体制を再度実現する必要があるのです。

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 そのために重要なのが「生産性向上」です。
雇用の維持拡大、労使の協力と協議、成果の公正な分配の「生産性運動三原則」に、全ての経営者は立ち返るべき時です。
 段ボールをはじめとするあらゆる包装資材を製造するレンゴーでも、生産性向上のための様々な取り組みを実践しています。
 例えば、2024年度までの中期ビジョンとして「Vision115」を策定しました。気候変動対策やデジタルトランスフォーメーション(DX)といった社会的要請にも応えながら、生産性を向上させ、社会に利益を分配できる企業であり続けるために行動しています。

 パッケージづくりや環境経営のキーワードとしては、より少ない資源で付加価値の高い製品の製造を目指すという意味で「Less is more.」を掲げています。
 安易なデジタル依存はリスクをはらむことから、DXにおいては、デジタル技術と実空間をバランスよく融合させるCPS(Cyber Physical System)の構築を目指しているところです。
 ほかにも様々な取り組みがありますが、私自身が常に心掛け、社員にも呼びかけていることの一つをお話しします。
それは、人を重んじ、現場を重んじることです。
私は会社に出社した際には全ての部署を訪問し、また折をみては各地の工場に足を運んで、最前線で働く社員一人ひとりの話を聴いてまわります。
「現場にこそ真理がある。」これは私にとって揺るがぬ信念です。

TFP(全要素生産性)の向上を目指す

また、今日の社会を俯瞰したとき、欠かすことができないのが、SDGs(持続可能な開発目標)への貢献でしょう。

SDGsは17の目標と169のターゲットから構成されています。そしてこれらの目標やターゲットは、ピープル、プラネット、プロスペリティ(豊かさ)、ピース、パートナーシップ、という「5つのP」に集約されます。
企業経営にとって、それぞれが非常に重要な視点です。


そもそも、生産性向上とは何でしょうか?
生産性向上とは、単に生産力を上げる取り組みをいうのではありません。
資本などの量的な生産要素のみならず、測定できないが生産性に影響をもたらすあらゆる要素も含めた全要素の生産性を高めることが肝要なのです。


目指すべきは、TFP(Total Factor Productivity)、つまりは全要素生産性の向上です。


1959年にヨーロッパ生産性本部が「ローマ宣言」の中で行った定義によると、生産性の向上とはつまるところ、昨日よりも今日、今日よりも明日の進歩を目指す心のあり方となっています。
また、米国の詩人、サミュエル・ウルマンは、「青春」という詩の中で、「青春とは人生のある期間を指すのではなく、心の様相をいい、理想を失った時に人は老いる」と書きました。


生産性向上というのは、不断の進歩を目指す心で取り組むべき経営課題なのです。
もちろん解決には困難も伴います。

そこで、自分なら何ができるかを考え抜き、実行する経営こそが何よりも重要だと私は考えます。

パネルディスカッション

新産業を創出 そのビジョンと課題

パネリスト

モデレーター

太田 このパネルディスカッションでは、50年先、100年先の日本を支える基幹産業の創出に向けたビジョンと課題を議論していきます。次なる基幹産業として大きな期待が寄せられているのが、再生可能なバイオマス(生物資源)やバイオテクノロジーなどを活用した経済活動、バイオエコノミーです。

近藤 2020年に、神戸大学発のベンチャーとしてバッカス・バイオイノベーションを設立しました。この会社は、燃料や化学物質などを微生物につくらせる「バイオものづくり」の技術や知識、装置などを集積した統合型バイオファウンドリです。
人工知能(AI)技術などとの統合により、バイオものづくりの研究開発プロセスを従来の10分の1以下に短縮するシステムを構築しています。バイオ開発の世界的オープンイノベーション拠点となることを目指しています。

小林 塩野義製薬は、長く医薬品の研究開発や提供をコア事業としてきました。しかし今日、社会情勢の急速な変化に伴い、医療やヘルスケアのニーズも多様化しています。そうした背景を踏まえ、広範なヘルスケアサービスを提供する「Healthcare as a Service(HaaS)企業」への変革を目指しているところです。
その一環として2022年には、下水から感染症の蔓延状況を調べる下水疫学調査サービスを行う合弁会社を他社と協働で立ち上げました。

葛城 デフタ パートナーズの理念は2つあります。
1つは、革新的技術を開発する企業に資金を投じ、新産業を創生すること。2つ目は、革新的医学の事業化を行い、天寿を全うする直前まで健康である社会を実現することです。
ベンチャーキャピタルが生業ですがが、事業開発会社と自認しています。
時間のかかる研究開発期に資金を投じて技術イノベーションを支えるだけでなく、技術の社会実装を支える制度イノベーションや、それらをつなぐエコシステムも提供しています。

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価値ある失敗を認める空気の醸成が急務

近藤 新規事業開発に伴う困難は様々あります。

バイオものづくりの場合、まだ事業化の事例が限られている先端技術であることなどから、事業の趣旨を理解し、資金提供などで協力してくれる人や組織を探すまでに苦労しました。肌感覚として、1000人に説明して、2~3人が理解してくれるくらいです。
しかし時間がかかっても、その2~3人を探す努力を惜しんではいけないのです。新しいことを成し遂げるには、長く苦しい時間を乗り切るだけの強い信念と情熱が何よりも必要なのです。


葛城 コロナ禍による社会の急激な変化は、多くの人に、「世の中は変わる」という実感をもたらしました。逆の見方をすれば、「社会を変える」ことは可能だ、ということです。
天寿を全うする直前まで誰もが健康に暮らす社会の実現のために何をすべきか。当社は、「この技術で少しでも救われる人がいるはず」という信念を持ち、ベンチャーの事業を支援しています。
今は小さなうねりでも、やがては社会を変える波紋となり、自分たちで現状を変えていけると強く信じ、進んでいくことが重要だと考えています。

 

小林 成功するか分からずとも、やってみる心意気、ある種の「根拠のない自信」も必要なのではないでしょうか? 
コロナ禍では、モデルナ社やビオンテック社(ファイザー社との連携)などのベンチャー企業がワクチン開発・製造を通じて一気に飛躍しました。バイオロジー(生物学)の領域から世界市場のメインプレーヤーが生まれたのです。
このことは、バイオエコノミーでゲームチェンジを起こそうとする企業に自信を与えたと思います。こうした社会状況が新たなゲームチェンジャーの誕生を後押しすると期待したいです。


近藤 現在は、失敗を恐れて挑戦しない若者が多いですね。答えのない解に挑む若者を応援する空気感の醸成が、社会全体の課題だと感じています。
価値ある失敗を認める社会をつくるべきです。

二酸化炭素(CO2)を原料として様々な有用物質をつくるなど、私自身も、バイオものづくりを通じた挑戦の真っ最中です。気候変動などの社会課題を解決する営みと、経済的な成功を両立させたいと思います。
 

葛城 ベンチャー企業の経営者や社員の多くは「ミスを恐れるよりも、行動の先にある成功を喜びたい」という思いで、すでに勇気ある一歩を踏み出しています。
自分の技術力や、それを活かした事業を社会に還元したいという強い情熱もあります。
一方で社会全体に目を向けると、ミスを恐れすぎていると感じることが多々あります。成功を皆で喜べる社会にしていくことが大切だと考えています。


近藤 まずやってみる。そして、失敗する姿もさらけだす。そうした人が身の回りにいれば、失敗してもいいから、自分もやってみようと思えるようになるのではないでしょうか。
「価値ある失敗」が認められる雰囲気の醸成がやはり必要なのです。

 

俯瞰できる人材創出とパートナーシップの重要性

近藤 とはいえ、やはり最初は誰もが怖いと思います。では何が怖いかと言うと、例えば技術者ならば、技術には自信があるが、経営に不安を抱えていることが多かったりします。
価値ある失敗を認める雰囲気の醸成と同じくらい、新規事業創出に挑戦する人が、人脈づくりやビジネスモデル構築など、個々の状況に応じて、必要な支援にアクセスできる仕組みづくりも大切です。
社会全体で、新規事業創出を複合的に支えるネットワークを構築していきたいですね。

小林 パートナーシップのあり方も重要になってきます。当社も事業領域をヘルスケア全般へ拡充するにあたって、様々な企業、組織と協調しています。
1社でできることには限りがあるからこそ、強みを補い合いながら、双方が成長していけるよう、フラットなパートナーシップを重視しています。事業規模や領域に関わらず、連携していく中で、新たな価値創出が促進されるだろうと考えています。
将来的には、こうした連携で生まれた知見や気づきを、多様な企業・組織が共有し、次の研究開発や事業創造へとつなげる仕組み、ネットワークも構築していきたいです。

 

葛城 ベンチャー企業の創業者たちの多くは、有り余るほどの信念や知的好奇心、情熱を持っているが、それだけでは十分とは言えません。
経営者には、状況を「俯瞰」で捉える視点が求められます。なぜこの会社が社会に存在しなくてはならないか。自らの技術を多角的に捉え、活用の方法を柔軟に考える力も必要です。
俯瞰の視点を持つ人材をどのように育てていくか、それが今後の大きな課題だと思います。

 

近藤 研究開発でも、ビジネスの現場でも、複眼的な物の見方は極めて重要です。ただそれは、人から教わるだけでは身につきません。実際のビジネスや研究の中での実践を通し、物事を集中して見る、あるいは俯瞰して見る、また、別の角度から見るといった、複眼的なものの見方を鍛えていく必要があります。


小林 インターネットなどを介して、人と企業や組織がつながりやすい状況も大きな強みといえますね。
社会課題を解決したいというビジョンと、それを実現するための技術や事業アイデアを当持ち、様々な場で発信し続ければ、心強いパートナーや支援者と出会う機会にも数多く恵まれてくるでしょう。


近藤 世界を見渡すと、設立10年以内で評価額が10億ドルを超えるユニコーン企業には、大学発のベンチャーが群を抜いて多いです。そのバックボーンには、社会を変える革新的技術の開発力や、そのための基礎研究に腰を据えて取り組める環境、豊富な知見があるからだと思います。
社会課題を技術で解決するのだという情熱も、世界市場で大きく飛躍するベンチャーを育成する基礎となっていると感じています。

私自身の今後の行動を通し、社会課題解決と収益化は両立できるのだと、日本の学生や若い大学教員にも証明していきたい。技術で世界を変えることのかっこよさを身をもって示して、次代のゲームチェンジャーを志す若者を増やしていていきたいです。

​分科会報告

人と社会の健康への4つの「問い」 〜社会課題を問う力を磨く

発表者

医療制度チーム  岡本 将隆 氏(JCRファーマ)

食の未来チーム  大森 健 氏(江崎グリコ)

Well-Beingチーム  大西 聡子 氏(JCRファーマ)

健康寿命チーム  笹岡 歩 氏(日清食品)

モデレーター

太田 義史(WHGC事務局長/アライアンス・フォーラム財団)

太田 WHGCは、人と社会の未来を考える人材創出のエコシステムとして、分科会を実施しています。2022年10月から2023年の3月にかけて実施した第一期分科会には、多彩な会員企業から次世代のリーダー候補が集結しました。4つのチームに分かれて議論を展開し、今後、WHGCが取り組むべき課題を掘り下げてきました。今回は4つの問い、にてその活動報告を行います。

岡本 医療制度チームは、「その医療サービス、当然だと思っていませんか?」という問いを立てました。
この先、公的医療制度だけに頼っていては医療サービスの質を保てなくなるでしょう。その問題意識から、民間企業にできることを探っていきました。
特に、若年層の健康意識を変え、生活習慣病などの患者数を減らせれば、将来の医療費負担も抑えられることに焦点を当てました。
そのためには、「自分は病気にならない」といった固定観念を取り払い、若いうちから健康に気を配る人を増やす啓もう活動の推進や、健康的な生活を送るとインセンティブが得られるような仕掛けづくりの両面が必要です。ここに民間企業に活躍の余地がありそうだと考えました。

大森「『食』は日本の社会を健康にしているか」という問いを立てた食の未来チームは、農家の所得の低さや、食生活に起因する健康問題、特定の国による食糧買い占め、さらには食料自給率の低さといった課題に焦点をあて、その背景などを議論してきました。
一つの光となったのが、食品関連企業や研究機関の連携により、九州ほどの国土しかないオランダを世界有数の農産物輸出国へと発展させた、フードバレーの事例です。
企業間連携による食の新産業創出を、日本でも実現できないか?
単独企業の取り組みには限界がありますが、複数企業の力を結集することで、その可能性を広げていけると考えています。

大西 Well-Beingチームは、「日本って、ウェルビーイングじゃないの?」という問いを立てました。日本は諸外国に比べ、心身共により良い状態を実現するウェルビーイングの理念が浸透していないのが実態です。
さらに言うと、個人や企業・社会の「Well-Being」に関するアンテナが、受信する方も送信する方も含め、より感度の高いものに取り替える必要があるのではないでしょうか? 
企業による人的資本経営の実践は、社会全体のウェルビーイングの実現を促進していきますまた、業界の垣根を越えたコミュニティーの形成による気づきや好事例の共有は、社会のウェルビーイングの実現をさらに加速させるものと期待しています。

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岡本 将隆 氏

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大森 健 氏

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大西 聡子 氏

笹岡 健康寿命チームの問いは、「健康寿命延伸:平均寿命―健康寿命=10年! 永く健康でいられるにはどうすればよいか?」です。
現状、日本の平均寿命と健康寿命には10年の差があります。議論の中で手本としたのが、平均寿命と健康寿命の差が6.7年と短いシンガポールの施策です。パーソナルヘルスレコード(個人の健康や医療、介護に関する情報)の活用など、参考になる点が多々あります。
今後は健康的な生活習慣の定着を促すためのデジタル活用の可能性を検討していきます。単なる海外事例の輸入ではなく、日本社会になじむデジタルの活用法を見出してきたいです。

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笹岡 歩 氏

太田  WHGC分科会は、会社や業種、職種の枠を超えたメンバーが集まって、ワイワイガヤガヤと健全な議論ができる場です。同じ課題に対しても、異なる視点やアプローチの仕方を実際に出し合っていくことで、視野が広がっていく経験が得られます。

さらに、人間と社会の大きな課題に取り組むことによって、「世の中はそういうものだ」「変えられないものだ」という固定観念を認識し、課題が自分ごととして認識できることで、どうやったら解決できていくか、自分たちで何ができるか、といった建設的な議論が生まれてきます。

​ぜひWHGC分科会、第2期にもご期待ください。

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太田 義史

 公開討論

ゲームチェンジャー創出へ 明日からすべきこと

パネリスト

五郎丸 徹 氏(学研ホールディングス  取締役/Gakken 代表取締役社長)

本澤 豊 氏(江崎グリコ コーポレートガバナンス 取締役)

西澤 良記 氏(公立大学法人大阪 理事長)

武岡 慶樹 氏(カネカ 常務執行役員  Global Opne Innovation 企画部長)

谷澤 和紀 氏(JCRファーマ 執行役員 開発本部長)

神永 晉 氏(デフタ パートナーズ パートナー)

原山 優子 氏(東北大学 名誉教授)

モデレーター

太田 義史(WHGC事務局/アライアンス・フォーラム財団)

太田 このセッションは公開討論と題して、WHGCアドバイザー、WHGC会員企業の経営層の方にご登壇いただき、ゲームチェンジャーを創出していくために、重要な視点や経営のあり方について、幅広く伺っていきます。

本分と羽化を繰り返すことで人は成長していく

五郎丸 次世代を担うゲームチェンジャーをいかに育成するか。これを考える上でも、WHGCの分科会の成果報告は実に刺激的なものでした。
業種や業界の垣根を取り払い、多様な人材と意見をぶつけ合う機会は貴重です。そこから得た知見や気づきは、新規事業創出のヒントにもなるでしょう。既存事業と関連づけて、事業創出の可能性を考えることも有益です。ここで新たに構築した人脈を駆使し、ジョイントベンチャーを設立していくのも一つの手ですね。
いずれにせよ、知識や知見を自分の中にしまったままにせず、次の行動につなげていってほしい。教育や医療、介護など、日本には課題が山積しており、事業を通じた課題解決を成し遂げるゲームチェンジャーの誕生を社会全体が待ち望んでいます。

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五郎丸 徹 氏

本澤 分科会メンバーの報告にあったように、自らが課題を見つけることこそが一番大切なポイントです。
人材が育つためには「本分」と「羽化」を繰り返すことが重要なのです。
本分とは「課題を見つけて問うて、仮説でもよいので答えを出してみる」こと。イノベーションやゲームチェンジは、そうした思索的営みの継続によって起こるものでしょう。
そこでは、幼虫がさなぎへと羽化するような「様態変化」を繰り返すことも求められます。卵からかえる「孵化」では、ぜんぜん足りない。「羽化」して自分の様態を変え、成功体験を含めた過去からの脱皮を繰り返す。それこそが、人を絶えず成長させるプロセスと考えます。

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本澤 豊 氏

西澤 領域の壁を越えた融合や協調も、新たな知を生み出すためには重要です。
2022年4月、共に異なる歴史と伝統を持つ大阪市立大学と大阪府立大学との統合によって、大阪公立大学が誕生しました。11学部1学域15研究科を持つ総合大学です。
統合のため、およそ10年間をかけて、両大学の教職員が真摯にディスカッションをおこないました。その結果、学部間の壁が低くなったのです。このことは、分野融合や、それによる総合知の創出を促進させると大いに期待しています。 
2026年には、健康長寿医科学研究センターを設置する予定です。研究機関ですが、臨床医療や介護なども行います。こうした新たな試みを通して、「研究だけ」「治療だけ」「看護だけ」ではない人材養成に引き続き取り組んでいきます。

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西澤 良記 氏

一人でやらない!皆でやるから社会が変わる

武岡 当社は、事業を通じて健やかな社会を実現すべく、「健康経営・wellness first」を目標に掲げました。
総合化学メーカーとして、環境・健康・食糧といった地球規模の課題解決に向かっていく中で、日々実感するのは、オープンイノベーションマインドの重要性なのです。自前主義を捨て、また既存の枠組みや既成概念からも離れて、志を同じくする人や組織と協調していく中で、新たな価値が創出できると信じています。
技術者が自らの技術を磨き、それに誇りを持つことはもちろん大切ですが、他者や他の企業、組織の知恵も取り入れることができれば、達成できることの幅が広がります。1人だけ、1社だけでは解決できない社会課題を解決する道筋もみつかっていくでしょう。

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武岡 慶樹 氏

谷澤 当社は高度なバイオ技術などを強みに希少疾病分野に特化した製薬企業です。
小児稀少疾病の治療薬開発など、まだ満たされていない医療ニーズへの対応が、事業のモチベーションとなっています。必要とする人に、必要な薬を届けること自体が、当社にとってはある意味での報酬ともいえます。
その報酬を得るためには、研究開発から製造、販売に至るまで、各部門が持てる知見や専門性を総動員し、全社の知を結集することが大切だと考えています。
そしてイノベーション創出には、挑戦と現実性のバランスの見極めも重要になってきます。そもそも企業として事業活動を続けられなければ、社会課題解決に挑戦することすらできません。現実を見据える力も求められるのです。

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谷澤 和紀 氏

神永 自分は事業を通して何をやるのか。それを経営者のみならず、あらゆる部門や立場の人間が自覚して日々の仕事に臨む必要があるでしょう。
その際、「自分たちだけでやってはだめだ」というくらいの気概が大事です。他者を巻き込み、課題解決に立ち向かう人や組織の環を広げていくべきです。
能動的な意思をもって事業に向き合うプレーヤー同士が、事業規模や領域などに関わらず、フラットなパートナーシップを築いた先には、きっと大きな成果が生まれてきます。
当グループも技術や制度のイノベーションに加えて、こうしたエコシステムづくりを重視しています。
「社会と個人は一体である」ことは、どの分野にも通じることです。一人でやってはいけない、というのは、皆とやればそれが社会に貢献することになり、社会を変えることにもつながるからです。そして、ゲームチェンジャーとは、そうしたものであるべきなのです。

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神永 晉 氏

原山 そもそもゲームチェンジは、特別な才能を持つ人だけが起こすものではありません。誰もが自分の中に何らかのポテンシャルを秘めています。一番肝心なのは、それをいかにして引き出すか。
そのために自力で実現できる人もいますが、そうでない人もいます。そうでない人も、自らのポテンシャルを開花させられるような環境づくり、良い化学反応を誘引するような出合いの場づくりが必要となってくるのです。
さらには、ゲームチェンジャー創出のためには、社会を変えるために挑戦する人を見える化すること、いわば、ゲームチェンジャーの可視化が重要ではないでしょうか。
地政学上の課題が深刻化し、グローバル化に逆行する世界的な動きも顕在化しています。こうした現実を乗り越える人材を、日本から創出していきたい。
自己満足に陥らず、「社会の中の自己」を認識し、豊かさを分かち合うために行動できる人材の育成を強く望んでいます。

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原山 優子 氏

※所属・肩書きはフォーラム開催時の情報です

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